訪問歯科と栄養:噛む力が支える「食べる喜び」と健康寿命
「しっかり噛んで、美味しく食べる」
当たり前のことだと思っていても、年齢や病気によって徐々に難しくなってしまう場合があります。思い通りに食べられないことが身体や心に与える影響はとても大きく、訪問歯科の現場ではそれを日々実感しています。今回は、訪問歯科と栄養の関係を解説し、患者さんが自分の口で食べることを支えるすぎうら歯科クリニックの取り組みについてご紹介します。
噛む力・飲み込む力と栄養の深い関係
栄養不足の始まりは「噛めないこと」から
高齢者の栄養不良は、食べる量や質だけの問題ではありません。そもそも「噛めない」「飲み込めない」といった口の機能が衰えることで、食べられる食材も制限され、さらに食事そのものも億劫になり、栄養摂取に支障が出てしまいます。
咀嚼・嚥下がうまくいかないと起こる悪循環
噛みにくさや飲み込みづらさがあると、やわらかい物ばかり選ぶようになり、栄養も偏ります。タンパク質やビタミン不足になってしまうと、筋力も衰え、さらに嚥下機能が低下してしまいます。まさに負のスパイラルです。
食欲不振の背景には口腔トラブルがあることも
入れ歯の不具合、歯の痛み、口内炎など、口の中の不快感が食欲を損なうこともあります。訪問歯科では、こうした見えない食欲低下の原因を見つけ出し、丁寧に対応していきます。
訪問歯科ができる「栄養支援」のかたち
痛みの軽減で「噛む意欲」が戻る
虫歯や歯周病の痛みをそのままにしていると、患者さんは自然と食べることを避けます。適切な治療によって痛みを取り除くだけで、「食べたい」という気持ちが回復するケースも多いです。
歯科衛生士による口腔ケアで誤嚥予防にも
清潔な口腔環境を保つことは、栄養をとるだけでなく、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。定期的なケアを通して、口の中から健康を支えるのが私たちの役割です。
多職種との連携で実現する“食べる支援”
管理栄養士との情報共有の重要性
「どのような食事を用意しているのか」「どこまで噛めるのか」といった情報は、歯科だけで判断できるものではありません。管理栄養士との連携により、無理なく安全に食べられる献立の提案が可能になります。
嚥下リハビリの専門職(言語聴覚士)との協働
飲み込む力に不安がある方には、言語聴覚士のサポートが欠かせません。嚥下機能評価やリハビリを行うことで、食べられる範囲を広げることができます。
食べる力を守るために、私たちができること
定期的な口腔ケア
訪問のたびに義歯や残存歯の状態を確認することで、口腔機能を維持することができます。小さな不具合でも早めに対応することで、大きな問題を防ぐことが可能です。
患者さん本人だけでなく、家族への情報提供
家族が日常的な食事管理をしている場合が多いため、「何を注意すべきか」「どんな変化があれば相談すべきか」などのアドバイスも欠かせません。
まとめ
口から食べることは生活の基本であり、人生の楽しみそのものです。訪問歯科は、食べる力を守るために、栄養という観点からも深く関わっています。これからも、患者さんが「自分の口で食べ続ける」ために、現場でできることをひとつずつ積み重ねていきたいと思います。